今回のレコードは久しぶりに引っ張り出してきたミュンヒンガー/シュトゥットガルトのブランデンブルク。1972年の録音のようで、ライナーノーツにはミュンヒンガーの3回目の録音と書いてある。若い頃の宮本文昭なんかが録音に参加していて、師匠のヴィンシャーマンと共に心地よいアンサンブルを聴かせてくれるのが面白い。そしてこのレコードの最大の特徴は、録音、というか、音が抜群にいいこと。付属の帯にも録音を自画自賛する売り文句が連ねてあるが、それに違わず大きな音場の中に展開する正確な定位とダイナミックレンジの広さ、音の立ち上がりの明確さは今までいろいろ聴いてきたアナログ盤と一線を画すもので、曲の出だしから圧倒される。ずいぶん久しぶりに聴いたけれど、いやあ、レコードってこんなにいい音出せるんだね。今でこそ配信もハイレゾなんかがあるし、CDも録音やリミックスで音が抜群にいいものが多くなっているが、CDが出始めた初期の頃のものは、なんだか生気のない寝惚けたような感じの音を出すのもけっこうあって、おそらくこういう音がいいアナログ盤に慣れていた向きには、CDは音が悪い、と感じられる人も相当数いたようで、当時はCDとレコード(デジタルとアナログ)、どっちが音がいいか、なんていう議論もそこここで聞かれることがあった。演奏の方は、CDで持っているイ・ムジチ(これも音がいい上にソリストたちも豪華でアンドレやペトリ、バウマン、トゥーネマンなんかが参加していて好きな録音)の溌剌としたテンポ感と比べるとずいぶんゆったりとした包み込むような音楽が眼前に広がって、しみじみとした気分にさせてくれる名盤。そういえば、自分は今までこの曲をずっとブランデンブル”グ”と表記していたが、今回ネットで検索してみると、ブランデンブル”ク”とするのが多数派のようである。まあ、原語では確かに語尾のGは無声音だから、”ク”の方が近いのかな。ともあれ、こういうひと時を与えてくれる音楽とその演奏はありがたい。

brandenburg