今日から明日にかけては関東を中心に大雪の予報で、自分の住んでいる地域でも午後から降りだした雪はそこそこなレベルで積もりはじめているが、以下は1月下旬のある日の話。その日は寒さで目が覚めて窓の外を見ると冷たい風が吹きすさぶ中雪が一面に積もっていた。昼に若干陽が出て多少寒さが緩んだものの夕方からまた粉雪と共に強風が吹き荒れ、夜になるとまさに冬の嵐の様相を呈するようになる。住んでいる賃貸は築年が古くサッシの機能もそれなりでしかないため、こうした嵐の夜はガタガタピューピューと窓を鳴らす風の音とともにオーディオに耳を傾けることになるのだが、こんな日によく引っ張り出すのがベートーヴェンのピアノソナタ17番、通称”テンペスト”、である。その意味は”暴風雨”であるようだし、元になったシェークスピアの戯曲の方も船が嵐で難破する場面を表す表題のようだから、どちらかといえば”台風”、とか、風雨を伴う悪天候が曲名から想起される空模様、という認識が一般的なのかもしれないが、冬が長く雪深い田舎で生まれ育った自分のとってのこの曲のイメージは、鉛色の空の下細かい雪を伴って吹き荒れる冬の嵐、ということになる。所有しているブレンデルのピアノソナタ全集だとDisc 6に16番と17番が収録されていて、この2曲はいつもセットで聴いているために16番の方は”テンペスト”への導入曲としてすっかり脳内に刻み込まれているのだが、部屋の中央のソファに座っていてもわかるほどの窓から漂ってくる冷気に若干身を竦めながら温かいアールグレイを傍にこのCDを聴いてみると、Aray MkIIで輝きを増したブレンデルの正確なタッチによる透徹な表現がどちらの曲も冴え渡り、そのどこまでも突き抜けていくような響きはただひたすらに美しい。やはりこの曲は寒い時に聴くに限るな(個人の感想です笑)。まあ、趣味だからね。俗世のいろいろなしがらみからひととき解き放たれてこういう独りよがりな感想を抱きながら聴く音楽というのも、乙なものではある。今夜は風は強くないけれど、しんしんと降り積もる静けさの中で、また聴いてみようかな。
ブレンデル
普段は仕事を家に持ち帰ることはないのだが、締め切りの迫った仕事があったため、やむを得ず持ち帰って処理している。仕事とはいってもまあ作文のようなもので、ソファに座ってノートパソコンを膝の上に乗せればできる類いなので、オーディをを聴きながら進めることにしてみた。お供はブレンデルのハイドン。なんかここのところブレンデルが続くが、このCDはいつ手に入れたか全く記憶がない、というか、棚から掴み出す前は持っていることをすっかり忘れていた。こういうのがたくさんあるなあ。聴いてみると、理路整然とした音楽の運びが、なんというか、作文のお供にちょうど良い。あれよあれよという間に作業が進んで、気がついたら文章が完成していた。これが職場でやると、結構進まなかったりするから不思議なものである。4枚組だがCDはまだ3枚目。寝るまでに全部聴けそうかな。普段から本を読んだり、ネットサーフィンをしながら聴いていることも多いのだが、必要に迫られてのこととはいえ、こういうながら聴きもたまにはいいのかもしれない。
どういうわけかここ最近なんだかすっかり生活や仕事のリズムが狂ってちっとも暇人ではなくなってしまっていて、かれこれ2週間ほどまともにオーディオの前に座ることができなかった。今日は終業後珍しく気力が残っていたので久しぶりにアンプに火を入れて棚から掴み取ったCDを聴く。はじめの1枚はブレンデルのシューマンで、これも学生時代に買った1枚だから30年選手だな。時々取り出しては聴くアルバム。最初は拗ねたようになんだかよくわからない音を出していたシステムが、しばらく我慢して聴いていると、途中から、ふっ、とまともに鳴り出して、俄然ブレンデルの世界を奏で始める。この瞬間が面白い。出羽桜の純米大吟醸、”一路”をかたむけながら過ごす至福のひととき。次はいつこういう時間が持てるかな。
中古レコードを少しづつ買うようになって思うのは、ライナーノーツに書かれる録音情報が少ないなあ、ということである。録音場所、レコーディングスタッフや機材に言及があるのは珍しい方で、録音年の記載すらないのがけっこうある。CDの場合は詳細な録音データが記載されていることが多いので、この変化はデジタル化の後のものなのだろうか。今日聴いたブレンデルのレコードも書いてない方の一つ。発売が1980年ということしかわからない。アルフレッド・ブレンデルは大好きなピアニストの一人で、CDはけっこう持っているのだが、ショパンは初めて。中古屋で見つけた時は、ちょっと驚いたが、聴いてみると、これがけっこう面白い。ブレンデルって、何を弾いてもブレンデルになるんだね。アシュケナージやポリーニとは全く違う、ブレンデルの世界がそこに拡がる。淡々として、知的で、ただ無機質ではなく人間的な厚みというか情感を感じさせる演奏。こんなことを言っても彼は喜ばないだろうけれど。でも、やっぱりブレンデルの演奏は、好きだ。
ここのところ、オーディオの音が、いい。なんだそれ、と思われるかもしれないが、数日前あたりから、割と突然に再生される音の鮮度が上がったような気がする。音像がよりくっきりして、オケの低音弦とか、ピアノのタッチとか、聴いていてゾクゾクするようなヴィヴィッドな響きが奏でられるようになった。出てくる音があまりに気持ちがよくて少々気味が悪いほど(どっちやねん)。別に酔っ払っているわけではないし、怪しいクスリをキメているわけでもないのだが。最近はセッティングの微調整もひと段落して、何もいじらずにただ鳴らしていることが多いのだが、逆にそれが良かったのだろうか。あるいはアンプのエージングが進んだか。ブレンデルのモーツァルトが淡々と鳴り響く夜更け。ただ鳴っているだけではなくて、確かに彼のピアノがそこに”ある”ような。始めた頃はまたいつか飽きて投げ出すだろうと思っていたオーディオからますます離れられなくなってきている今日この頃。
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